【決闘】アントン・チェーホフ

海外文学

仮にだよ、好きで一緒になった女があるとする。そこでまあその女と二年あまりも一緒に暮らしたあげくに、よくある図だが厭気がさして、縁もゆかりもない女に見えてきたとする。まあこうした場合に君ならどうするね。

彼はやにわに彼女を抱きしめて、その膝や手に接吻の雨を降らせた。それから彼女がなにか彼に呟いて、思い出にわなわなと戦くと、彼は女の髪を撫でてじっとその顔に見入りながら、この不幸な罪の女こそ自分の唯一の隣人、親身の、かけがえのない人間であることを覚った。

外へ出て馬車に乗ったとき、彼は生きて帰りたいとしみじみ思った。

二人はどんなにお互いにたよりあい、めいめいの欠点を喜んでゆるし合い、それぞれの持前を尊重し合うことだろう。よし外面だけの紳士にせよ、この世にはじつに少ないのではないか。

真実を求めて人は、二歩前へ出ては一歩さがる。悩みや過失や生の倦怠が、彼らをうしろへ投げもどす。が真実への熱望と不撓の意思とが、前へ前へと駆り立てる。そして誰が知ろう、おそらく彼らはまことの真実に泳ぎつくかもしれないのだ…