抜き書き
いくつもの電信柱の向こうに、巨大な鉄塔が、雨に打たれ続けていた。
高く立ち並ぶ雑居ビルの上に、銀に光る避雷針がある。それは垂直に伸び、高く日の光に当たり、僕は視線を逸らしまた人混みに入った。
幾何学のような模様が刻まれた、恐らく昔からそこに立つ石の塔だった。真っ直ぐに伸び、ぼやけながら、それは揺るぎないものとしてそこにあった。
生まれた場所で彼の生活は規定され、その押されていくような重い流れの中で、彼は動き続けているように見えた。
「お前はまだやり直せる。何でもできる。万引きや盗みは忘れろ」
「どうして?」
子供が、僕を見上げていた。
「世界に馴染めない」
強盗の最中、全ての行為を意識し、楽しむことだ。他の人間が人生の中で決して味わえない分野を、お前たちは味わうわけだから。
死の恐怖を意識的に味わえ。それができた時、お前は、お前を超える。この世界を、異なる視線で眺めることができる。
僕は指を伸ばしながら、あらゆるものに背を向け、集団を拒否し、健全さと明るさを拒否した。自分の周囲を壁で囲いながら、人生に生じる暗がりの隙間に、入り込むようにして生きた。
だが、他人の所有物に手を伸ばす時、その緊張の中で、自分が自由になれるような気がした。自分の周囲を流れるあらゆるものから、強固な世界から、自分が少しだけ外れることができるような、そんな感覚を抱いた。
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